帰ってきたバーボン親父

ここかい?どんぐり村のスナック純てのは。
うん、この店は初めてなんだ。前はよく別の店に顔出してたんだけどね、最近はとんと行かなくなってさ、近くにいい店が無いか捜してたんだけどね、なかなか感じのいい店じゃないの。ああ、バーボン1本入れてくれ。
しかし何だね、今日は暖かくっていい天気だね。この調子でこのまま春になってくれたらなあ。そうはいかないんだろうなあ。一杯もらっていいかいって?まあ飲みな。
お客さん、なんて呼べばいいかって?まあ、バーボン親父とでも呼んでくれ。バカボンじゃないぜ。よく「バカボンのパパだぁ」なんて間違える姉ちゃんがいるんだ。
ハンフリー・ボガードに似てるって?お愛想言うんじゃないよ。ボギーは好きだけど俺だって身の程ってもんは知ってるさ。
昔な、石原の裕ちゃんの一周忌の頃によく追悼番組やっててさ、ある店に飲みに行ったらトレンチコートの襟を立ててカウンターで一人グラスを傾けてる親父が居たのさ。まあちょっと裕次郎に似てて本人もなりきってるつもりらしくて、今にもブランディグラスなんか歌いだしそうだったけど、どう見ても裕次郎より南伸介のほうにずっと似てて笑い出しそうになったことがあったな。
ママは結婚してるのかい?ふーん、それは残念だな。俺かい?俺はずっと独りもんさ。
たくさん女を泣かしたんでしょって?何言ってんだい、泣かされたのはこっちのほうだ。若い頃は傷ついたりもしたけれど、時が傷を癒してくれて、だんだんかさぶたが厚くなってきて、最近じゃちょっとのことでは傷つかないおじさんさ。
でも、傷ついているうちが華さ。俺みたいになっちまったら人生の楽しみがなくなっちまう。

「いのちー短かし〜♪恋せよ〜乙女〜♪」

知ってるかい?ゴンドラの歌。ブランコに乗ってこの歌を歌いながら雪の中死んでゆく志村喬、この映画見たかい?
生きてることは体に悪いわ。でも、体に悪いことは楽しくて、こうして俺は毎日酒を飲んでるってわけさ。
そいじゃ、又来るわ。

「いのちー短かし〜♪恋せよ〜乙女〜♪朱き唇〜あせぬ間に〜♪」



幽霊酒場のバーボン親父

やあ、こんちは、親父、バーボンくれ。
それにしても毎日暑いね。俺なんか暑くて仕様がないから毎日涼むために飲み歩いてるよ。
それにしても此処は冷房が効いてて涼しいね。
毎日来ちゃおうかな。
俺もこのビルは随分通ったんだけど、この店だけは来たこと無いな。
前からあったっけ?
もう10年になるって?
そうか、俺も良く、こんな所に店があったんだって思う時があるもんな。
ところでさ、この頃ちょい悪親父がトレンディとか云う記事を見たんだけどよ、ちょい悪ってどれくらいの悪なんだろうね。
コンビニでエロ本万引きする程度かね。
それは、立派な犯罪ですって?
そうだよな。親父、まともな人だね。
近頃は、万引きを犯罪とも思わないガキが多いらしいよな。
自転車なんか盗んでも罪の意識なんか無いんだろうな。
知り合いがさ、ある時警察から電話がかかってきたんだと。
こういう色のこういう自転車持ってましたかって。
その頃そいつも家庭を持っててガキがいたから、通学のために自転車を買ってやってたらしいんだけど、何回か盗まれたらしいんだよな。
何回も盗まれてそのたびに買い換えているから、どんな色やら形やら覚えているわけもないのさ。
警察の話では大学生が夜、無灯火で乗っていたんで職務質問して、「この自転車は貴方の物ですか?」と訊いたら急に青ざめて、どこそこのサイクリングロードにうち捨てられていたんで、拾ってきて通学に使っていて、チューブを取り替えたり、夜、車から見やすいように反射板をつけたりして大事に乗っていたと云うんだよね。
それで引き取りに来てくださいと言うから、「そんな、こっちも忘れて居る物を大事につかってくれているんなら、あげますから使ってください。」と言ったら警察としてはそういうわけには行かない、と言うんで仕方なく取りに行ったら、盗難自転車が山のように並んでいて、「この自転車ですね。」と言われても覚えてるわけは無いんだけど「ああ、そういわれればそうかもしれませんね、」と言うと書類を山ほど書かされて最後に「自転車どうしますか?何だったらこちらで処分しますから」と言うんで、又書類書かされて帰ってきたんだとさ。
どうせ捨てるなら、その青年にあげれば良いのに、役所仕事って融通がきかねえよな。
親父、何、泣いてんだい。
何?生き別れの同じくらいの子供がいて、同じように苦学しているからついもらい泣きしちまったってか。
会社をリストラされて女房と一緒に店を始めたら女房に男が出来て子供つれて逃げちまったのか。
なんて会社だい?ふーん大企業じゃないの。全く近頃は大会社だって何時つぶれるか分かったもんじゃねえしな。まして家のような零細企業じゃなおさらだ。
借金が貯まりに貯まって首が回んなくなって、思い詰めてつい鴨居に縄を掛けて首を吊ったってか。そらまあ大変だったな、、、、、って、なにか?あんた死んでんの?てぇことは幽霊なの?
そうか、道理で冷房が効いてると思ったぜ。しかし電気代かからなくて良いよな。
壁の灯りも中に人魂が入ってるって。
隣の綺麗なお客さんもよく見りゃ手首から血を流しているし、長い足も途中から薄ぼんやりとしてるわな。普通のお客さんは来ないのかい?
夏場は結構繁盛してるって?幽霊になったら経費がかからなくて黒字になったって?ふーん、確かにな、静かだし涼しいし、ちゃらちゃらした餓鬼も来ない良い店だよな。
あんたきっと善人なんだろうな。俺もさ、とっくに首吊っててもおかしくない店の親父を知ってるけどさ、平気で生きてるぜ。あんたももう少し世の中なめて生きてたら死なないでも済んだかも知れねえな。
まあ、それも持って生まれた運命ってことかもしれねえな。
それでどうなんだい、幽霊の生活ってもんは。
ふーん、それはそれで慣れれば面白いってか。
そんなもんかね、住めば都っていうしな。
しかし、なんでまた幽霊になってまで働かなきゃなんないんだい?
あの世にいけば働かなくても済むんじゃないのかい?
俺なんか一所懸命働いたって年金だって貰えるかどうかわかりゃしねえ。
ふーん、息子に仕送りしてんのかい。そりゃ大したもんだなあ。
社会人になって嫁でももらえば安心して成仏出来るだろうってか。
そうだよなあ。
しかし親父よ、子に美田を残さずって云う諺があるじゃないか。
子供に財産残したって逆に放蕩して人間駄目にしてしまうこともあるぜ。
こないだテレビで見たんだけどよ、ある外国の大金持ちの息子が親の財産受け継いだは良いが、何を勘違いしちまったのか、自分はある年齢以上生きられねえと思いこんでしまったらしいんだよな。それで逆算してそれまでに莫大な財産を使ってしまおうと放蕩三昧して見事に全財産使い切ったは良いが、死ぬはずの歳になっても死なねえのさ。
そいつはそのころ遊んだ経験を生かしてそれなりに生きてるみたいだったけど、子供に残す財産ってのは金じゃなくて生きる知恵だよな。
まあ、親父も息子が嫁でももらったらさ、さっさと成仏した方が子供のためになるってものよ。
なかなかこの店気に入ったぜ。又来るわ。そいじゃおあいそしてくれ。
「幽霊だけにお足はございません。」って言うのかい?
何、きっちり戴きますって。しっかりしてんね。釣りはいらねえぜ。まあ息子の学費の足しにでもしてやんな。
そいじゃ、又来るよ。
「い〜のち〜みじ〜かし〜♪恋〜せ〜よ〜お〜乙女〜♪」




バーボン親父故郷を語る

やあ、マスター、バーボンくれ。
初めて来てこう言うのも何だが、きたねえ店だね。
床なんかべたべたするぜ。
お客さんはゴキブリかい?
ゴキブリだってこの床じゃ足がはがれないぜ。店全体がゴキブリホイホイみてえじゃないか。
なに?それがゴキブリのお客も来てるって。
どこだい?えー!冗談で言ったのに本当に居やがらあ。
生意気にソファーに座って脚組んでジントニックなんか飲んでやがるよ。
それにしてもでかいゴキブリだねえ。
あんた、もしかしてカフカの「変身」のグレゴール・ザムザじゃないのかい?
何、違うって?しがないサラリーマンですって?
よっぽど団塊の世代の大量退職で人手不足なんだね。ゴキブリを雇う会社まであるのかい。
会社では中々優秀だって。
何やってんだい?ふーん、ハウスクリーニングの仕事か。人が入りにくい狭い所も掃除が出来るってか。時々居心地が良くてそのまま寝ちゃうってか。仕様がないな、ゴキブリだもんな。
しかしお客さんは嫌がったりしないかい?
ゴキブリを差別するなって?
わかったよ。そんなに手足振り回すなよ。
どうも最近変な店にばっかり当たるなあ。
マスター、少しは掃除した方が良いぜ。店の中でこの有様なら厨房の中は、、、おおっと、でっかい蠅がくわえタバコでチャーム作ってるじゃねえか。
よしこって名前だって?名前までつけてんのか。家の婆さんと同じ名前だよ。
それにしてもフライパンの振り方が堂に入ってるね。
働き者で大層重宝してるのか。そんなに働くなよ。働き者の蠅ほど不衛生なものはねえ。

マスターは北海道の人間かい?ほーう、阿寒町か。
どんな町なんだい。何もないって?せいぜい阿寒湖のマリモが名物くらいか。
晴れの日にはでっかいマリモが湖から上がってきて、のそのそ温泉街を歩いてるって?
時々疲れて立ち止まり「バオッ」ってため息ついてるってか。
学校帰りの悪ガキどもが後ろから押すもんだから、良く坂道を緑のマリモが転がり落ちてるのが夏の風物詩か。

は〜れれ〜ば、う〜かぶ水のぉうえ〜♪ く〜もれ〜ばし〜ずむ水のぉそ〜こ〜♪ってか?

親父、こっちが行ったこと無いと思って適当な事を言うもんじゃないよ。

俺かい?俺は佐呂間町の出身よ。
佐呂間の年寄りは固い物何でも食べるぜ。梅干しの種だってばりばりよ。
何てったって入れ歯替わりにホタテの殻咥えてるからな。
ちょっとカッパみたいに見えるのが難点だけどな。
小学校の頃は前の席のホタテの安藤がカチカチ貝を開いたり閉じたりしやがって、五月蠅くって先生の声が聞こえなかったな。おまけに時々潮吹いておもらししやがって、そのたんびに授業が中断されて後始末よ。
音楽の授業じゃ何時も安藤はカスタネット担当だったな。
あんたも随分吹くって?
親父ほどじゃないよ。
そこの兄さんはどこの出身だい?
夕張?夕張も大変だな。財政破綻しちまってな。
それで札幌に出てきたのか?
貧乏で食う物がないから三食メロン食ってたって?
そら、貧乏じゃねえじゃないか。
どんな食事なんだい?朝はメロンの味噌汁にメロンの皮の漬け物?
昼はメロンの炒め物で、夜はメロン鍋か。ふりかけ代わりに石炭の粉かけてたって?
そうか、どんなもんでも食い続けりゃ飽きるわな。

よおマスター、サラリーマンが天井這ってるぜ。注意した方が良いんじゃないかい?
ゴキブリだから仕様がないって?困った客だね。
おいおい、あんたのとこの従業員飛び回ってるぞ。
ぶんぶんうるさくて仕様がないよ。
何とかしなよ。
アルバイトの時間が終わったから何も言えないって?
こりゃたまらん。俺帰るわ。釣りはいらねえよ。
あのサラリーマンに店のクリーニング頼む足しにでもしな。
じゃーな。

い〜のち〜みじぃかし〜恋せよぉ乙女〜♪