増毛へ水汲み 2012年7月23日


暑寒別岳の伏流水を汲みに増毛へ。
このところ2週間に一度くらいのペースだ。
国稀酒造の水汲み場はポリタンクを抱えた老人達で一杯だった。
それで酒蔵の中を覗くと國稀酒造の歴史について書かれてあった。

「國稀」は元は「國の譽」という名前だったのだが、日露戦争時、旭川第7師団の増毛町出身者が旅順の203高地で多数戦死したため、國稀酒造の創業者本間泰蔵が発起人となり慰霊碑を建てることになった。

それで碑文の揮毫を乃木希典にお願いしに行き、乃木の人格に感銘を受け、乃木の名前を一字貰って「國稀」としたということだ。
「希」では無く「稀」としたのはそのままではおこがましいと思ったかららしいが、いみじくも「のぎへん」になってる。

そもそも本間泰蔵はもともとは呉服商を増毛で営んでいたのだが、当時酒は内地からの移入物で高価だったために増毛で酒造りを始めたらしい。

水を汲んでそのまま留萌方面に走る。
初山別(しょさんべつ)に行きたかったのだ。
去年の秋の道北から道東を巡る旅行では、苫前の辺りから朱鞠内湖(しゅまりないこ)の方に行ったので、羽幌も初山別も通っていなかった。

先日知り合いが我が家に来た時、初山別のオートキャンプ場に行くと言ったので「うーん?そんなところ通ったかな?」と思って調べたら、やっぱり行ってなかったことが分かったのだ。

地図で調べると天文台があり、星が綺麗に見えるらしい。
これは一度行かなければと思い、次回水汲みに増毛に行くときは少し足を伸ばしてみようと思っていた。

増毛から留萌を越え海岸沿いの道を走ると、右手の丘の上に多数の発電用の風車が並んでいる。
そこが苫前(とままえ)だ。

苫前町のマスコットはヒグマなのか、やたら母熊と子熊のイラストの看板がかかっており、消防署の敷地には大きな熊の木彫りが立っている。
苫前といえば吉村昭の「羆嵐(くまあらし)」で有名な苫前三毛別事件の舞台だ。

http://homepage1.nifty.com/~n_izumi/higuma/jiken.html

人食い熊がマスコットの村とは、、、もうちょっと何か無かったのかねえ。

さらに北上し羽幌(はぼろ)に近づくと白と黒の模様の大きなペンギンの像が建っている。
「なんだい、、ペンギンでも飼ってるのかい?」
と思ってフェリー乗り場に行くと、そこにも同じペンギンがいる。

このフェリー乗り場は羽幌沖の天売島、焼尻島へ行く船が出ており、天売焼尻といえばオロロン鳥、、そうか、これはペンギンじゃなくオロロン鳥か!そういえばペンギンより嘴が長い。

羽幌の道の駅「ほっとハートはぼろ」の隣にはバラ園があり、様々な色のバラが色鮮やかに咲いていた。
純子にも見せたかったが、純子は夜勤明けで爆睡していたので、ぴっぴと共に車に残し一人で散策をしてビデオを撮る。

初山別は美しいところだった。
天気が良かったことも有るのだろう。
初山別天文台の看板を左折する。
すごく広い駐車場が有るが車は2台停まっているだけだ。

1台はマイクロバスのキャンピングカー。
メーカーで製作したバスコンではなく自分で改造したらしい。
駐車場の端に停車して地面に衛星放送受信の為のパラボラを置いてある。
もう一台は柏ナンバーのRV車。

相変わらず爆睡中の純子とぴっぴを残し天文台に向かう。
入場料が高かったら止めようと思ったら200円だった。
入ると受付の窓口が有ったが誰もいないので帰ろうと思ったら、奥の部屋から人が出てきた。
入場料を払い中に入る。

初山別で撮影したらしい星空の写真が飾ってある。
螺旋階段を上がってゆくと二階には赤道儀の架台や小口径望遠鏡が置いてある。
天体観測会で野外に設置して見せるための物なのだろう。
メーカーはと見ると高橋製作所だった。
20センチのニュートン式反射望遠鏡が架台の脇に立てられていた。

三階に主鏡口径65センチのカセグレン式の反射望遠鏡が据え付けられていた。
架台はフォーク式というコの字形をした物だ。

反射望遠鏡には色々な形式があるが、一般的なのがニュートン式だ。
星の光を放物面鏡で反射させ収束し、先端部の副鏡(平面鏡)で45度光軸を曲げて鏡筒の外に出し像を結ばせる。
その像を接眼レンズで拡大して見るタイプの物だ。

カセグレンは同じく放物面鏡で光を集めて収束して行くのだが、途中で副鏡の凸面鏡(双曲面鏡)で拡大して焦点距離を伸ばす。
それを主鏡の中央に開けられた穴から外に焦点を結ばせ、接眼レンズで拡大して覗く。

望遠鏡の倍率は主鏡の焦点距離を接眼鏡の焦点距離で割った物だから、主鏡の焦点距離が長いほど大きくなる(明るさは暗くなるけど)。
カセグレンは副鏡で焦点距離を倍近くに伸ばしているから、同じ焦点距離ならニュートン式望遠鏡より長さがぐっと短くなる。
取り回しが楽になり、重量も軽くなるから架台も小さくて済むし、ドームも小さくて済む。

メーカーは三鷹光器だった。
昔から有る大型望遠鏡のメーカーだ。
色々撮影しながら見ていると受付の人が上がって来た。
ドームのスリットを解放しながらドームを回転させ太陽の方に向けている。

ドームを回すモーターとギアボックスが駐車場のターンテーブルを駆動している物とそっくりだし、スリットの上限停止に使われているリミットスイッチもターンテーブルに使われている物なのが可笑しい。
同じような動きをする物だから、同じような部品を使うことになる。

太陽の黒点を見せてくれたが小さな物が3個しか無かった。
今日は黒点が少ないという。

65センチのカセグレンの鏡筒にコバンザメのように小型の屈折望遠鏡が何個か貼りついているが、その中に口径60ミリ、焦点距離500ミリ程度の短焦点の物にデジタルカメラが付いている奴があった。

「プロミネンスが見えますからこれで望遠鏡を操作してください。」

とコントローラーを渡される。

天文小僧だったのは遥か昔の事だから、技術の進歩を知らなかった。
CCD撮像素子とプロミネンスの波長の光だけを透過させるフィルターを使えば、太陽本体の輝きに目を眩ませられずプロミネンスを見ることが出来るらしい。

デジタルカメラの液晶モニターを見ると太陽から吹き出し、又太陽に雪崩落ちてゆく弧状の炎が見える。
砂鉄の中に棒磁石を置くと両極の間に磁力線が作る砂鉄の弧が出来る。
この炎の弧は磁場を帯びた太陽が作り出す磁力線の形そのものなのだ。
この炎の中に地球がたっくさん入るような巨大な炎だ。

太陽の中では核融合反応が起こっていて、水素爆弾が無数に爆発しているような物だ。
原子爆弾の爆発は核分裂反応だが、水素爆弾は核融合反応でエネルギーを放出している。
水爆というのは人工的に作り出した太陽で、原爆を爆発させて水素の同位体を超高温、超高圧にして核融合反応を誘発している。
生ずるエネルギーは原爆よりはるかに大きい。

昼間だから太陽以外に見ることが出来る物がない。
館員の人に色々話を聞く。
気になった望遠鏡の価格を聞くと、なんと6000万円だったという。
億は下らないと思っていたのが意外な安さに驚く。
口径15センチのガイドスコープやら、その他の装備を含めてこの価格は23年前とはいえ随分安いと思う。
何社かから見積もりを取ったらしいが、一番高かったので1億5000万だったらしい。

ドームはアストロ光学製だがこれは2代目で、最初のドームは別のメーカー製だったのが、錆びて駄目になったので建て替えたのだそうだ。
何せすぐ裏が海だから塩害が酷いらしい。
鏡筒の内部を見せてくれたが、主鏡のアルミメッキも全体に曇り、所々染みの様になった部分がある。


普通は何年かおきにメッキのやり直しをするのだが、23年間一度もやっていないという。

「意外と大丈夫みたいですよ。」

と言うが、集光力は間違いなく落ちているだろう。

主鏡はセルというハウジングを含めると130キロあるらしい。
どうやってセルを降ろして鏡面の掃除をしているのか訊いてみると、逆に副鏡を外して人が中に入って掃除をしているという。
成る程、鏡筒は直径800ミリは有りそうだから、痩せた人なら入ることが出来そうだ。
閉所恐怖症の人は駄目だね。

礼を言って天文台を出る。
天文台の裏はなだらかな斜面になっていて海に続いている。
そこがキャンプ場になっていて一泊500円で利用できる。
徳島ナンバーのバイクが停まっていて、中年のライダーが受付で利用法を訊いていた。

http://www.hokkai.or.jp/shosanbe/info.html

駐車場に戻ってみたら純子はまだ眠っていた。
隣の柏ナンバーの親父が車の傍に立っていたので話しかけてみた。
親父は柏に住んでいるのだが、病気をしたのを機に会社を辞めたらしい。
ちょっと言葉が不自由なところを見ると当たったのかも知れない。
見たところ俺と同じくらいの年齢だろうから、辞める機会を窺っていたのかも知れない。

千葉の夏の暑さから逃げて、放置されていた初山別の実家に6月から来ているという。
8月になったら子供達も避暑にやってくるらしい。

「つまらない所だよ。」

と言う。
日がな一日、この海が見える高台の駐車場でぶらぶらしているらしい。

この辺りは大きなナマコが採れ中国に輸出されるらしいが、漁師は一週間で6000万円売り上げるという。
いやー、良い商売だなあ。

初めての初山別の印象はとにかく広くて、なだらかで、空が澄み切っていて、天文台裏の斜面のキャンプ場で夕陽を眺め、夜になったら天文台で星を見たら楽しいだろうと思った。
隣は道の駅で温泉も有るからこれはゆっくり出来そうだ。
純子もすっかり乗り気だから、雪の降る前に行くことになると思う。

7月23日 初山別まで日帰り。
朝10時に家を出て帰ってきたのが夜の7時半。
走行距離は400キロくらいになるのかなあ。


http://maps.loco.yahoo.co.jp/maps?ei=UTF-8&type=scroll&mode=map&lon=141.7743061&lat=44.5625478&p=%E3%81%97%E3%82%87%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%B9%E3%81%A4%E5%A4%A9%E6%96%87%E5%8F%B0&z=15&uid=86518a49ecce9dbc631883572f63879d8beb9144&fa=ids