ある日の夫婦の会話 2

人にはそれぞれ人知れずコンプレックスというものがあるものだ。
他人から見れば馬鹿馬鹿しいと思えることでも、当の本人にとっては切実な問題なのである。
大部分の悩みは年齢を加えてゆけば「なんてくだらないことで悩んでいたのだろう。」と思えるのだが、実害を伴ういくつかのものは歳をとっても残ってゆく。
私にも中学生の頃からの悩みがある。

すが

純ちゃん。「眉麻呂」無くなってしまったのだけど、どこにあるんだい?

「眉麻呂」というのは眉毛用の毛はえ薬で、日ごろより私が眉毛の薄さに困っていたことを知っている嫁が、通信販売のカタログを見ていると「マロな眉でお悩みのあなたに。」というキャッチコピーで眉毛用の毛はえ薬が紹介されていた。
夫思いの嫁は思わず膝を叩いて「これは父ちゃんに買ってやらねば。」と私の誕生日にプレゼントしてくれたのだ。

純子

もう買って無いよ。だって一年使っても3本にしか効かなかったじゃないのさ。

すが

そうか、、、。でもな、つけはじめてしばらくして、ある日鏡を見たら異様に伸びている毛が3本見つかったときは「やった!これで俺も麻呂を卒業だ。それにしてもちょっとこの伸び方は異常すぎる。このままの勢いで伸びていったら村山元首相みたいに目にかぶさってしまうかもしれんぞ。でも、その時はカットすりゃいいんだし、みつ編にするのもおしゃれかもしれんな。」なんていらん心配までして、まあとりあえず3本だけ垂れ下がっているのもみっともないからと毛先をそろえたら、もうそれっきり、「それっきり、それっきり、もう、それっきりですかぁ♪」まったくもう、、歌っちまうぞ。

純子

あんた、ちょっと気にしすぎでないかい?そんなに変なこともないよ。笑えるけど。

すが

純ちゃんはそう言うけどね、眉毛がないと怖いんだよ!
やくざに間違えられるんだよ。
どうも眉毛が抜けるのは湿度に関係があると俺はにらんでるんだ。
湿度の高い内地に居た頃はここまで抜けなかった。
水泳やってた頃もそうだったな。
そういえば、水泳を覚えたての頃面白くて、水の中で練習するとおぼれてしまうんで、クロールの手足の動きを立ちながら練習したもんさ。俺は凝り性だからさ、夢中になると周囲が見えなくなるのさ。帯広出張のときは、列車のつなぎ目のところで手足をバタバタ動かして息継ぎの練習をしたりして、途中で人が来るとあわてて何気なく窓の外の景色を見てる振りをしたりしてさ、、。きっと胡乱な奴だと思われたんだろうな。
でも、おかげで泳げるようになったんだが、札幌から帯広までクロールで泳ぎ抜いた人間はおそらく世界広しといえど俺一人だろう。あの頃はプールに毎日通っていたからお肌に湿り気があったんだろうと思うんだが、眉毛が抜けなかったんだ。

純子

あんた、眉毛の考察するよりは水泳のことをギネスブックに申請したほうがいいんでないかい?
そんなに悩んでるんだったら仕事柄うちには黒いビニールテープが沢山あるからさ、適当な長さに切って貼ったらいいしょ。
そば家にいってもりそば頼んだら、盛りそばの上に剥がれておちて、「あっ、もりそば頼んだのにざるが来たよ。」って幸せな気分になれるよ。

すが

お前は本当に賢い人間だね。
人生何事も楽しまなきゃいけないのだね。
とうちゃん又ひとつ教えられたさ。
おお、カトリーヌ♪

純子

あらまあ、ピエール♪

純子、すが

ごきげ〜ん〜よ〜♪