架空対談 宮崎 駿に聞く!
すが
えー、本日は私の大好きなアニメ作家 宮崎 駿 さんをお招きしています。
宮崎さんといえば、古くは「ルパン3世カリオストロの城」「アルプスの少女ハイジ」「未来少年コナン」
などでアニメファンにはおなじみだと思いますが、、、。
宮崎さん始めまして、すがといいます。
宮崎 駿
あー、こんにちは。
私、あんまり公共の場というのは苦手なもんですから、できるだけ避けるようにしているわけなんですが
今回ヴェネチアの映画祭で栄誉金獅子賞をもらったものですから、自分では自覚して無いと思うんですが
やっぱりほめられるというのは気分がいいんでしょうかねぇ、つい、お誘いに乗ってしまって来てしまったんですが
何故、私この第二次世界大戦時のイタリア空軍の飛行服に着替えさせられたんでしょうかね?
私が着るとどんなに凛々しい軍服でも紅の豚になってしまうんですが。
すが
なにをおっしゃる
宮崎さんの軍事オタクぶりはみんな知ってますよ。
私の思うところの宮崎さんというのは戦争反対なんだけど、軍隊大好きというイメージなんですけどね。
ところでこの座談会では第一回の櫻井よしこさんからの伝統として、ゲストの方を愛称で呼ぶ決まりになっているので
これからはみやっちとお呼びしてよろしいでしょうか?
みやっち
結構ですよ。何でも好きなように呼んでください。
すが
わたしがみやっちの作品を最初にみたのは「となりのトトロ」だったんですが、もともとアニメは子供のもの
と思っていたので関心がまったく無かったのですが、会社勤めをしていたとき同僚がみやっちのファンでありまして
ナウシカ、ナウシカと騒いでいたのでちょっと見てみようかとトトロのビデオを子供と一緒に見てみたのが最初でした。
これは大人のための童話だと思いました。ちょうど私なんかはメイと同じ世代なんだと思うのですが、そうそう
あのころこんな風景を見たなと、デジャブを起こされるんですね。
みやっち
「トトロ」は私の中で企画はずっとあって暖めてきたものなんです。
でもアニメにするには資金が必要ですから、あんな胸躍るアクションがあるわけでもない、私たちの平凡な子供時代の
生活の想い出を描いた映画の企画はなかなか資金を出してくれなくて、たまたまパクさん(高畑 勲)の「蛍の墓」
が収益の目途がついたので同時公開ということで、ついでのような感じで作ることができたんです。
すが
しかし「トトロ」と「蛍の墓」の併映というのもすごい話ですね。
「トトロ」を見た後に「蛍の墓」を見て映画館を去るってのは、なんか救われませんね。
逆なら良いんですけど、私だったらもう一度「トトロ」を見てから帰りますけどね。
「トトロ」を見て思ったのは、この映画の主人公はトトロでもサツキでもメイでもない、風とか、光とか、闇とか、あるいは
水田の風景といった、人と自然が調和して生きていける空間、いわゆる日本の里山って言うんですかね、それが主人公だと
思ったんですよ。
みやっち
そうですね。ストーリーといえば結核の母親が療養のため田舎の病院に入院して、家族も一緒に田舎に引っ越してきて
子供たちは母親の死への恐れという不安の影を抱えながらも、子供らしく生きてゆく、せいぜい事件といえば母親の病状が悪化して
メイが病院に一人で行こうとして迷子になるぐらいで。
あなたもそうだと思うんだけど、トトロに出てくる風景というのは私たちの世代のありふれた風景なんですよ。
ああいう風景のなかで私たちは育ってきた。日本人の心の中にある原風景なんですね。吹く風にも、清冽な小川の水面に踊る
陽の光にも、鬱蒼とした大木にもすべて神が宿っているという信仰が日本人の心の中にはあると思うんです。
まあ、トトロという変な生き物はそういったへんてこ神様の象徴というか。
すが
昔、奈良の橿原神宮に行ったことがあるんです。
橿原神宮といえば神武天皇を祭っているとはいえ、明治になってから作られた神社です。
でもそこに行ったとき、この風景は以前にも見たことがある、と思ったんですね。
森の中の参道を歩いていってぱっと景色が開けると社殿があるというその感じ。
日本には仏教文化の他に、神道の文化というのがあったんだという衝撃を感じました。
私なんかは北海道で育ったからあまり神社仏閣には縁が無かったのですが、そんな人間でも郷愁感を感じてしまう
というのは何なんですかね?
みやっち
何なんでしょうね?DNAに記憶されているとか、、、。
リポット・ソンディというハンガリー出身の心理学者がいるんですが、ウィーンで軍医の卵として勉強しているときザクセンとアーリアンの出身である金髪の語学教師と恋に陥り結婚しようと思った。
ところがある日夢を見た。自分の両親が自分の異母兄のことを悲しげに話している夢だったというんです。
30年ほど前にその異母兄もウィーンで医者の勉強をしていてザクセンとアーリアン出身の金髪の語学教師と恋に陥り結婚したんですが、そのために医者の道を断念することになり、結婚生活も破綻し悲惨な一生を送ったと嘆いている夢で、目が覚めても強烈に夢のイメージが残っていたソンディは、彼も心理学を専攻してましたから、これは決して偶然の一致では無いと考えたんですね。
親戚にそういう人がいたのか確かめて見ると確かにいて、実際彼の夢の中の通りの人生を送っていたというのがわかり、自分は無意識の中でその異母兄と同じ運命を自ら選択しようとしていると直感して、結婚を取りやめたと言うんです。
そしてかれは家族的無意識というものがあって、人は人生の選択の中で右の道に行こうか左の道を行こうか判断するときに、無意識に彼の祖先の意志に支配されている、それは人生の岐路とかいった大きな選択だけでなく日常生活の些細な選択でも同様なんだ。たとえば胃がんになる人は無意識にそういう食生活を選択している、それを人は運命と呼んでいる、という運命心理学というものを作ったんです。
人間の体のどこに先祖の記憶をとどめる部分があるのかわかりませんが、はじめて行った場所であるにもかかわらず、すごく懐かしく感じることがありますが、あれは先祖の記憶かもしれませんよ。
すが
さっきみやっちはトトロの中の風景はありふれたものだとおっしゃいましたが、子供の頃の記憶ってすごい色鮮やかじゃないですか。
子供の頃の記憶で時々思い出す風景がいくつかあるんですが、たとえば真夏の焼け付いた小学校のグランドの水のみ場で、ぼこぼこへこんだアルマイトのカップで水を飲んだ時に目に入った空なんてのは、記憶の中ではトトロの中の鮮やかな空の色なんですね。
でも本当にあんなに空が青かったはずが無い。
みやっち
色彩設計さんにいつも派手好みだって言われてますよ。
記憶色というのがありましてね、家庭用ビデオカメラを実際の発色を忠実に再現すると、きれいに映らないとお客さんからクレームが来るというんです。
記憶の中の色彩は実際より鮮やかみたいですよ。
だから民生用のカメラは実際より派手な発色になっているんではないですかね。
私の記憶の中の少年時代の風景はああいう鮮やかな色なんです。
すが
「千と千尋の神隠し」の英語版DVDは色が赤すぎるって発売元のディズニーが訴えられましたよね。
みやっち
映画を見てもらえば分かると思うんですが、実際フイルムでも赤いエフェクトをかけているんですよ。
もともと異界の話ですからちょっと不気味な世界を演出したかったんです。
でもハッピーエンドの話だから観客の記憶の中ではもっと明るい色に記憶されちゃったんですかね。
すが
「千と千尋の神隠し」は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の影響を受けていると言われてますが、私はそのほかにつげ義春の「ねじ式」の影響も受けていると思うんですが、、、。
たとえば初めて千尋が異界の町に入ったときに目医者の看板がたくさんかかっていますね。
あれは「ねじ式」へのオマージュですか?
みやっち
どうでしょうかね。いろいろな影響を受けて作家は出来上がりますからね。
子供のときは手塚さんの影響で漫画家になりたいと思っていました。でもあるとき自分の漫画がすべて手塚さんのコピーでしかないのに気がついて書き溜めた原稿をすべて燃やしてしまいました。
今でも漫画家になりたかったという思いはあります。もう少し絵がうまかったらきっとなっていたでしょうね。
すが
「風の谷のナウシカ」は初めは諸星大二郎に原作を提供して描いてもらいたかったと伺ったんですが、諸星版のナウシカというのも見てみたかったですね。
漫画版のナウシカは全部で7巻あって映画のナウシカはそのうちの2巻目迄をまとめあげたもので原作とはかなり違いますよね。漫画の方のナウシカは最後は人間じゃないような気がして、むしろクシャナの方が人間らしくて好きですね。しかしみやっちは戦闘シーンとか空を飛ぶ場面を描く時生き生きしているなと感じます。
みやっちの作品のテーマに人と自然のかかわりというものがありますが、今中国が経済発展をしているために環境汚染がひどく黄砂を防ぐために日本の民間団体が中国に植林をしたりしているのですが、みやっちは十年後中国はどうなっていると思いますか?
よっしーは分裂するんではないかとおっしゃっていましたが。
みやっち
13億の人間が先進国並みに自動車に乗ったりしたらどうなると思いますか?
地球にはそれだけのエネルギー資源はありませんよ。仮にあったとして環境汚染は地球規模のものになるでしょう。
人類は13億の人口を抱える国が先進国になった歴史を持ちません。
アメリカですら約3億でしょう。私は中国は自分の体重でつぶれてしまう恐竜のようなものだと思っています。
中国人には是非自転車に乗っていただきたい。それが人類の為だと思います。
すが
これはまた、昔、学生運動をやったり東映の労組で活躍していた人の言葉とは思えませんな。
みやっち
人は年齢と共に変わって行くものですから。
先に先進国になった人間のエゴだといわれるかもしれませんが、それが現実なんです。
富の分配は決して平等にはならない。今言ったように資源は限られています。私たちは気がつかない間に、一人一人がたくさんの化石燃料を消費しています。例えばハンバーガーを買うとしますと、まずハンバーガーを作る燃料が必要です。包装する紙を作る熱エネルギーも要る。原料や製品を運ぶガソリンも必要だ。先進国の人間は後進国の人間よりはるかにエネルギーを消費しています。中国人がみんな先進国並みの生活を送れるようにあなたはハンバーガーを食うのをやめますか?と聞けばほとんどの人はNOと答えるんだと思います。
共産主義が失敗したのは、人間は他人より良い生活をしたい、他人より優位に立ちたいという欲望を持つ生き物であることを忘れていたからなんです。
中国や北朝鮮が理想的な国でしょうか?党幹部の富の独占、金一族のための国家、結局一部の人間の利益のための国でしかないじゃないですか。
すが
今中国は急激な経済成長のために環境汚染がひどい状態で、先日も韓国で中国から輸入したうなぎが農薬で汚染されていて問題になったことがありました。公害物質が垂れ流し状態の河川や海、村民全体が腫瘍に侵された村まである。
そういうところで取れた魚や貝、野菜、韓国で報道された中国産のうなぎも生協で見かけるけれども、
何故日本では報道されないのでしょう?
しかるべき役所はちゃんと検査してるんでしょうかね。
家の嫁さんは中国産の食料は絶対買わないといっています。
一度中国産の蜆を食べたところ、泥臭くて安物買いの銭失いどころか、どんな重金属が含まれているか分からんと思って二度と買わないようにしています。
みやっち
中国で一番安いのは人の命ですからね。
人口が半分に減っても、まだ6億もいると共産党幹部は思っていると思いますよ。
古代に栄えた都市は皆森林伐採により滅んでいったといわれています。
ギリシャだって紀元前1500年ころは豊かな森が広がっていました。都市ができ周りの森林を伐採していった結果、河川に土砂が流出し今のような荒廃した土地になってしまったのです。
日本が繁栄出来たのは豊かな森があったからだと思いますよ。
ひとつはモンスーン地帯で雨が多いこと、そして江戸時代の森林保護政策だと思います。
江戸時代も初期の高度成長期にはひとつの山を丸ごと伐採するようなことをやっていました。
しかしその後森林管理や植林をして徹底的な管理をしていました。
それは明治以降も受け継がれ台湾統治時代にも植林をし計画的な伐採をしています。
ところがその後国民党が大陸からやってきて山の木を切ってしまった。
中国人には森を育てるという考えは無いのかもしれませんね。
すが
国土が広いですからね。ここがだめになったらあっちへ、そこもだめになったら他国を手にいれりゃいいという考えなんでしょうかね。
いずれにしてもこれから中国は世界の紛争の中心になってゆくんじゃないですかね。
ところで今やみやっちファンは全世界にいてnausicaa.netなどというのは世界中のファンの交流と情報の入手の場になっていて著名なアニメーターなどが一ファンとして書き込みをしたりしていますが、宮崎アニメの影響を受けたと思われるアニメが随分出ていますね。
みやっちはコピー、いわゆるパクリと、影響を受けたというのの境目はどこら辺だと思いますか?
みやっち
パクリというのは悪い意味で使われますが、模倣というのをすべて否定すると新しい才能は出てきませんよ。
私にしても手塚さんやメビウスさん、そのほかにもいろいろな方たちの影響を受けました。
初めはパクリでもいいんです。でもいつまでもパクリのままでいること、そしてこちらが元祖だと言うことが問題なのです。
すが
しかし、手塚さんもかなりパクられてますよね。
新しいところでは「ライオンキング」は「ジャングル大帝」のパクリだ、訴えれば絶対勝てるとアメリカのファンが怒っていましたし
古いところでは「ミクロの決死圏」はアトムの1エピソードのパクリだと手塚さん自身が自著の中で書いています。
何でもアメリカでこのエピソードがテレビ放送された後、アメリカの映画会社から著作権の問い合わせがあったのですが、その後何の連絡もないうちに映画が公開されたとのことです。でも自分自身アメリカ映画も随分参考にしていたので訴える事はしなかったそうなんですが、そういう手塚さんの良く言えば鷹揚な態度が日本のアニメがパクられる原因を作ったとは思いませんか?
最近のディズニーアニメなんか日本アニメのパクリばっかりじゃないですか
みやっち
手塚さんは良くも悪くもアニメの世界に影響を与えています。
もし、手塚さんがあんなに安い値段でアニメを売らなければ、アニメーターの生活はもっと良いものになっていたでしょうね。
日本のアニメーターの待遇が悪いのは知れ渡っていて、外国のアニメーターが日本のアニメーターの仕事振りを見たいというので、見たって参考にならないよ、アパートさえ借りられなくて机の下で寝てるんだからというと「知っている。そういうところが見たいんだ」
と言ったという話があるぐらいなんですから。
すが
そうなんですか、アニメーター残酷物語ですねぇ。
ある意味そういう状況の中で世界中に評価される作品が生まれているというのも驚く話で、、、。
みやっちはトイストーリーみたいな3Dアニメというのはどう思っています。
わたしはあののっぺりした質感がどうもなじめないんですが。
みやっち
手法はどうでもいいんです。中身がどうかということなんでね。
ジョン・ラセター監督とは昔一緒にアメリカでアニメーションを作る計画があって、まあ頓挫してしまったんですけどその時からの古い友人ですが、若い頃から才能のある人でしたよ。
でも私はセルアニメが好きなんでこだわり続けます。セルアニメとは云っても今は原画をコピーしてパソコンに取り込んで着色してますからセルはなくなっているんですけど。
まあいつまでつくり続けられますかね。
「もののけ姫」を作った後やめるつもりでいたんですがやっぱり戻ってきてしまいました。
すが
作家にとって作品を作るってことは排泄行為と同じなんではないでしょうか。排泄しないと腹が膨れて死んでしまう。
もって生まれた業だとあきらめてつくり続けてください。
今日は色々お話を聞かせていただきましてありがとうございました。
みやっち
さきほど伺ったんですがこの飛行服はお土産にいただけるということで愛車のモーガンの三輪に乗るときに使わせてもらいますよ。
空を飛んでるみたいな気分になれそうですね。