純子のお料理教室
皆んな、今日はアンコウ鍋を作るよ。
真冬に暖かいアンコウをつつきながら熱燗を一杯なんてたまんないね。
アンコウってさ、見た目グロテスクでぬるぬるしてて気持ち悪いんだけどさ、食べたら美味しくてアンキモにポン酢をかけてもみじおろしで食べれば口の中でトローと熔けて、う〜んよだれが出てきた。
アンコウの捌き方の特徴はね、なんと言ってもつるし切さ。
ぬるぬるしてるからね、まな板の上でも捌けるみたいだけど吊るしたほうが捌きやすいね。
家のどこに吊るしたらいいんだって?
我が家の場合はね、父ちゃんが流しの上の棚に穴をあけてボルトを通してフックをつけて鈎を引っ掛けてくれたのさ。こんな風にね。
それでここにアンコウの下あごを引っ掛けるのさ。
ぬるぬるしてて気持ち悪いだろ?
なんかエイリアンかジョーズみたいだね。表面にねばねばした粘液みたいなものがベターっと付いてるから掴まえ所がないんだよね。それに歯がとがってるから手を傷つけやすいのさ。だから吊るし切になるんだろうね。
捌くときに軍手を忘れちゃいけないよ。
まずはひれを取るんだよ。
ひれがあると皮がぺろーっときれいに剥けないからね。
軟骨だらけの魚だからひれの根元の包丁が入りやすいところを探して刃先を通すと簡単に取れるよ。
だけど、なんせぬるぬるしてるからやりにくいことは覚悟しときな。
腹の方にも小さなひれがあるからね。
そうするとこんな風になるからね。それで口の周りの皮に切れ込みを入れて皮をはぐのさ。ぺろーっと尾ひれのところまでいっぺんに剥けるよ。
それでむき出しになった姿を見ると内側に更に肉のような、皮のような、とにかくねばねばしたけったいな代物に覆われていて、その中にはらわたが透けて見えていて、骨も軟骨みたいなものだからどこをどうやって切っていったらいいのか見当が付かない。普通の魚みたいに、はらわたを取って骨に沿って包丁の刃先を入れていけば三枚になってしまうのとは訳が違うのさ。むしろ牛や羊の解体に近いと思うよ。そういうのが気持ち悪いって人はやらない方がいいかもね。
アンコウは捨てるところがほとんど無いって言うね。口と鰓と一部の軟骨だけらしいけど今回は初めてのことだから肝と胃袋を残して思いっきり捨てたよ。だってどこがなんなんだかさっぱり判らないんだもん。
捌くときは鋏がとっても役に立つね。
ほんとに外科手術してるみたいなのさ。
「先生!心拍数が減少してます!」
「うーん、これは腹腔内で出血してるかも知れないね。これから開腹するよ。メス!」
「うーん、肝臓に脂肪が貯まってるね、このままでは肝硬変を起こすかもしれないね。よーし切除。」
「先生、それでは患者が生きられなくなってしまうと思うんですが。」
「いいんだよ、こんなけったいな奴なんだから肝臓くらい無くたって生きられるさ。何これ?周辺の組織に癒着してるね。鋏かしな。ほーれ、鋏は役に立つね。粘っぱってたやつが簡単に切り離されてゆくよ。」
ばっちん、ばっちん
まあ、そんな按配でアン肝を取り出すのさ。それから今度は胃袋さ。
「なんだかどこがどうなんだかよく分らないけど、こんなところでいいんでないかい?そーれ、ぱっちん、ぱっちん。」
「先生、腸はどういたしましょうか?」
「そんなもんは捨てておきな。食べられるらしいんだけどね、めんどくさいからね。」
という具合にはらわたをはずしてゆくのさ。
そうすると身だけになるんだけどさ、心臓の悪い人は見ないほうがいいかもね。
それでアンコウの本丸なんだけどね、背骨の両脇に身が付いててさ、柳肉って云うらしいんだけど、図体と口と内臓だけは大層あるくせに、身ってものがあんまり無いのさ。そいつを背骨に沿って切り削いで行くのさ。
そうすっと最後はこういう形になるんだよ。
これはちょっと別のところから借りてきた写真でね、あたしゃ皮をはいだ時点で水洗いしてぬめりを取って、あとはまな板でばらしたのさ。
それで湯引きして冷水にさらして臭みを取ってやると出来上がりさ。
どうだい?あんな気味の悪い魚からこんなに綺麗な身が取れたよ。
アンコウ鍋への道まっしぐらだね。
料理の仕方は自分で調べておくれ。
あたしや今回は味噌仕立てにしたけどね、これはそれなりに美味しかったけど、赤味噌と白味噌を半々にして入れたのは失敗だったかもね。
北海道の人間はあんまり赤味噌の味噌汁を飲まないから、赤味噌の味ってのは慣れてないんだよね。
赤味噌は味が濃いからアンコウの風味を消してしまうと思うんだよ。
この次はしょうゆ味だね。
食べ終えたあと汁にうどんを入れて食べたら旨いと思うよ。