セイント・タッチバーナー
先日ツリチャにいったら誰かがツリチャも宗教法人にしたら良いんでないかい?という話になった。
そういや昔、某ライブハウスのHPを作っていた頃、そんな法螺話を書いたことがあったなあと思って、支障のあるところを修正して改めて上げて見た。
そう言えばあの店のホームページ復活したみたいだよ。
誰かが作ってくれているんだろうな。
改めて読み直してみれば中々面白いじゃないの。
ある日いつものように○○○の階段を上がってゆくと扉の前に釣鐘がぶら下がっていた。
スガ「なんだ?こりゃ?どっかの寺から盗んでんできたのか?」
純子「また、オーさんがどっかから買ってきてマスターにあげたんじゃないの?」
スガ「それにしてもこりゃ200キロはあるぞ。よく天井が持ってるもんだな。
おまけに釣鐘を突く棒までぶら下がってるじゃないか」
純子「あんたちょっと突いてみなよ。私、釣鐘突いてるところなんか見たことが無いから。」
スガ、縄を持って二三回軽く棒を揺らしてから思い切り鐘を突いた。
「グォーーン」
純子、スガあまりの音の大きさにびっくりして階段から転げ落ちる。
「うわー、耳がきーんと鳴ってる。なんだい、マスター、こんなところに釣鐘なんかぶら下げて、
これじゃあ店にはいるにも、体を横にして腹を引っ込めなきゃ入れないじゃないか?デブは入店お断りって事か?」
純子「前々から変わってると思ってたけど、ついに来るときが来たね。」
スガ「まあ、とりあえず入ってみようか」
スガ、体を鐘と扉の間にねじ込んでドアを開けた。
スガ「なんだ?こりゃ?」
店の風景が一変していた。
カウンターの上の棚からはインドのクリシュナー神が横笛を吹いて笑みを浮かべているポスターやら、
横尾忠則の「千年王国」や、曼荼羅のポスターがぶら下がっており、お香の匂いが立ち込めていた。
純子「どうしちゃったの?これ」
「檀家の皆さん、今日はお布施を持って参られたのかな?」
どこかから声がした。
純子「何?今マスターの声がしなかった?」
スガ「そうだよな、確かにマスターの声のような気がしたけど」
すると正面のクリシュナー神のポスターが静かに上がりマスターが現れた。何故か黒い袈裟を着ている。
スガ「何だ、マスターいたのかい。この変わりようはどうしたの?」
マスター「私は今日からマスターでもカズさんでもございません。聖タッチバーナーと呼んでください。
昨夜、神の啓示を受け今までの悪行を反省し、今日からは『宗教法人○○○』の代表でございます。」
スガ「えー!、何、この店は寺になっちゃたのかい?」
マスター「そのとおりでございます。あなたたちは信徒でございます。
従いまして以後この店で飲み食いした勘定は全てお布施ということになります。」
スガ「ふーん。ご本尊は何なんだい?」
マスター「そこの壁に掛かっております『手稲ライブジャム』のポスターでございます。
私は毎朝それに向ってお祈りしております」
純子「毎朝って、さっき、今日からって言ったじゃない。」
マスター「そんな細かいことはどうでも良いのでございます。ところで信徒スガ、純、今日は何を飲まれますか?」
スガ「俺はビールをもらおうかな。」
純子「私は焼酎の水割り」
マスター「当寺ではお酒は禁止です」
スガ「えー、お酒が飲めないバーなんてあるの?」
マスター「ですからここはもう宗教法人○○○であることをお忘れなく。ウーロン茶ならございます」
スガ「しょうがないな、それじゃあウーロン茶でも頂戴、それと生ハムね。」
マスター「これほど言ってもお解かりにならないか?殺生は禁止でございます。精進料理ならございます。」
純子「まあ、何でもいいんじゃない。それにしても又なんで店を寺にしようなんて考えたのかね?
はーん、税金対策だな。宗教法人は税金がかからないからね。」
マスター「な、なにを根拠にそのようなことを、私は純粋に仏にお仕えしようと、、、」
純子「なにいってんのさ。ポスターはヒンズー教、聖なんたらはキリスト教、おまけに仏と来たもんだ。
よくもまあ、あちこちから寄せ集めてでっち上げたもんだね。マスターの魂胆は私にはお見通しなんだよ。」
スガ「宗教法人でも何でも良いけど、とりあえず外の鐘だけでも片付けた方がいいんでないかい?
あれじゃあ、お客もはいれないしょ。」
マスター「よく考えてみりゃそれもそうだな、とりあえず鐘ははずそう」
純子「よく考えなくったってそうだよ。いったいあんな重いものどうやって運んだものやら。
それにその袈裟はどっから持ってきたのさ。」
マスター「ちょっと友達の坊主から借りてきたんだ、こいつが又、生臭坊主でさ、
毎夜、毎夜薄野に出かけてはキャバクラで遊びまくってるのさ。」
純子「それでこれは良い商売だと思ってこんなことを始めたんだね」
マスター「まあ、そんなとこかな。ところで今日は法要があるんだけど参拝してくかい?」
スガ「法要ってなんなのさ」
マスター「まだ、拙僧が俗界に居ったころはライブと言っていたがな。」
スガ「誰が出るんだい?」
マスター「そこに僧侶の名前が書いた紙があるであろう。」
スガ「なになに、井上 陽水?!本当かい?!俺の大好きな歌手じゃないの!
マスター、やったね。やっぱり俺は前々からただの酔っ払い親父じゃないと思ってたのさ。
いずれは何かでっかいことをやらかすんじゃないかと。」
純子「みんな集めなきゃね」早速携帯を取り出し○○○の常連に連絡を始めた。
陽水が来るという情報はたちまち広がり続々と人が集まり始めた。
阿部先生などは入り口の釣鐘に腹がつっかえ身動き取れなくなっていたのを、みんなで何とか鐘を押して中に引き入れた。
マスター「イエィ!こんなに檀家が集まったのは久しぶりだぜベイベー!
今日はどんどん飲んで頂戴。酒でも焼酎でもビールでも何でもたっぷり用意してあるからね。
つまみはなにがいい?
スープカレーも鳥の脚も生ハムもあるよ。」
スガ「マスター、さっきは酒は無い、食い物は精進料理しかないって言ってたじゃないか。」
マスター「あれは冗談、寺で酒を飲んでいけないって法律がどこにあるんだ。」
スガ「どうも納得いかないが飲めないより飲めたほうがいいか。マスター、ビール頂戴」
酒が入り始めるとひとしきり○○○が寺になった話題で盛り上がり、さらに酒が入ると
マサキさんは「いやー、○○○で陽水のライブが見れる日が来るとはおもわなんだ」と感激の涙を流すし、
ヤブさんは相変わらずスガに向って「あんた色黒いけど、どこの国の人?どこの国の人?」とろれつの回らない口調で聞くし、
オーちゃんは「病気をしてから、俺は生まれ変わったんだ。昔の俺は忘れてくれ。」と意味の良くわからないことをわめくし、
スナコッチは12倍の檄辛カレーを汗も出さずに食い終わって、カウンターの片隅で寝始めるといういつものセサミの風景になった。
宴もたけなわのころ入り口のドアが開いて例のパーマの頭とサングラスで陽水が現れた。
「みなさん、お元気ですかー。」
一同「おー!陽水だ」
マサキさん「なんまんだぶ、なんまんだぶ」と拝みだす。
陽水「檀家の皆さん、今夜はお集まりいただきありがとう。本日はたっぷりと私の読経をお楽しみください。」
マスター「本日は拙僧がパーカッションをやらせていただきます。」
どこから持ってきたのか木魚を磨きながらマスターが言った。
やがて静かにリバーサイド・ホテルのイントロが始まった。誰も知らない夜明けが明けたとき、、、
純子「ねえ、あんた私音楽の事良く知らないけど陽水ってこんなに下手だった?なんか音程が狂ってるような気がするんだけど」
スガ「そうだよな。なんか俺と大差ないような気がするぞ。」
マスター「これ、そこの方、法要の最中に私語を交わさないように。」ぽっく、ぽっく、ぽっく、一段と木魚の音が大きくなった。
純子「それにさ、確か陽水って大男だったと思ってたけど、あんたより小さいじゃないの。なんか変だね。」
他の人たちもひそひそ声を交わしてざわめきだす。
マスター「あーうるさいな」ぽっく、ぽっく、ぽっく、ぽっく、さらに木魚の音が大きくなった。
ライブが進行してゆくにつれざわめきも大きくなり、それにつれて木魚の音も負けじと大きくなり
しまいには木魚の音で歌が聞こえなくなってしまった。
そんな調子でライブが終わり陽水が帰っていった。
誰も、会話を交わさなかった。みんなの中には一つの疑念が湧いていた。
やがてマサキさんがぽつりと言った。「マスター、あれは陽水かい?」
マスター「なに言ってんだい、陽水に決まってるだろ。」
スガ「あんな音痴が井上 陽水 だったら俺だって歌手になれるわ。」
マスター、うろたえながら「何時、拙僧が井上 陽水が来るなんて言った?そこの紙をよく読んでみろ。」
一同出演者の書かれた紙を覗き込む。
マサキさん「どれどれ、ん?なんか井の中にごみのようなものがついてるな。」
マスター「そうであろう、あの方は どんぶりのうえ ようすい 和尚じゃ。」
純子「言うにことかいて、どんぶりのうえ ようすい なんて名前がどこにあるのさ。」
マスター「だってあるんだからしょうが無いも〜ん。」
一同怒りのあまりマスターににじりよる。
マスター「なにをなさる。寺で暴力沙汰はいかん。」
一同「簀巻きにして鐘の中につっこんでしまえ。」
マスターぐるぐるまきにされて上から鐘をかぶされてしまう。
スガ「どれどれ、鐘の鳴り具合はどんなかな?」鐘を突く。
グオ〜〜ン
マスター「勘弁してくれ、俺が悪かった」
純子「一晩鐘の中で過去の悪行をすべて反省しな。」
一同「そうだ、そうだ、帰ろうぜ。」
マスター「ここからだしてくれよー、俺は閉所恐怖症なんだ。助けてくれよー。」
○○○の照明が消えてもマスターの叫び声は続いていた。
