バーボン親父悪良いす
やあママ、とうとう雪が降ったね。
ああ、いつものバーボンくれ。
タイヤ交換はしたし除雪機の整備もしたから何時降ってきても良かったんだけど、冬ってのは好きじゃねえな。
スキーもスケートもしないから、わざわざ寒い外に出かける気も起こらないし。
せいぜいこうやって飲みに出るくらいが関の山さ。
こいつかい?
うん、こいつは学生時代の同級生なんだ。
今は平凡な親父やってるが、学生の頃はバリバリ学生運動やってたんだぜ。
何故かそいつが今は大企業で管理職やってるんだけどな。
ユーミンの歌であったじゃねえか。
「就職が決まあって♪髪を切いって来たとき♪もう若あくないさと君に言い訳したねえ♪」ってやつ。
あれよ。
しかし随分石油の値段が上がったよな。
こんなに石油が値上がりしてきたら今年の暖房費はどうなる事やら。
お前んとこも車の商売だからガソリンが上がると何かと影響があるんじゃないか?
だけどよ、俺たちのガキの頃って石油焚いてる家なんかあったか?
我々の子供の頃はどの家にも石炭小屋があって、雪が降る頃になるとすごい量の石炭を買っていたよな。
その頃は、自宅の部屋の小さな窓から夏にはテレビ塔が見えるが、冬になると時にスモッグでかすんで見えない事が良くあったなあ。
雪も灰色をしていたしさ。
日本は石油を輸入に頼っているし、当時はまだまだ貧乏な国だったから一般家庭で石油を燃料にするにはお金がかかりすぎたんだろうな。
でもこれだけ石油が値上がりすると、別のエネルギーという物も考えなけりゃいけないと思うんだよな。
大体札幌なんて化石燃料が無ければこんなに人が住めるところでは無いはずなのさ。
人類はよ、火や道具を使い、集団で狩りをすることで他の動物たちより優位な立場に立ったんだよな。
知ってるかい?ギリシャ帝国やローマ帝国が滅んだ理由。
古代文明は森から木を切り出し燃料としたり、建築資材にして街を作り、ひととき繁栄を築くんだが、みんな森の荒廃と共に滅びていくんだよな。
燃料も建築資材も得られなくなり、山の土砂が海に流れ込み魚介類も捕れなくなってしまう。おまけに水深が浅くなり港湾都市として機能しなくなってしまったかららしいぜ。
アテネとかスパルタといった古代の都市はみんなそうして滅びていったらしいぜ。
ママおかわり頂戴。
産業革命以来、人間は森の木の代わりに太古の太陽エネルギーを植物の体に変えて土の中に封じ込めた石炭という太陽の化石を燃やすことにより蒸気を作り、それで機械を動かす様になった。そうそう、ワットの蒸気機関って奴よ。
蒸気機関の発明により食物の生産地は都市から遙か離れた場所であっても良くなった。
あらゆる物が都市に集まり、蒸気船で他の街に運ばれ貿易も商業も工業も発達し都会には人が密集するが田舎には人がいなくなる。
医療は発達し病気で死ななくなる。
産業革命をきっかけに人口の爆発が起こったのさ。
化石燃料を使わなければ世界の人口なんて産業革命以前の頃の人口なんだろうな。
我々が学生の頃教師が「世界の石油資源は後○年で尽きる。」と言っていたけどよ、もうその3倍くらいの年数が経っちまったが未だに石油は出ている。
新しい油田の開発と油田掘削技術の発達で、それまで汲み出せなかった原油をとれるようになったかららしいぜ。
今回の石油の高騰の原因については政治がらみの操作も取り沙汰されているけど、このまま何時までも石油に頼って生きてゆくのは出来ないんじゃないだろうか。
お前んとこもそのうち電気自動車売るようになるかもな。
アラブの産油国の大富豪なんてのはさ、自家用ジェット旅客機を持っていたりして、笑っちゃうくらいの金持ちなんだけど、それは偶々そういう石油が出る土地に生まれただけの話でさ、そんなもん不労所得だぜ。貧乏な奴が裏庭の石ころひっくり返したら大判小判の壺が出てきたみたいなもんだろ?
自分が努力して作り上げた財産じゃ無いじゃねえかよ。
日本なんてのは資源も何もない、でも知恵と努力と心だけで世界第二位の経済大国になったんだぜ。こっちの方がよっぽど意味のある財産じゃねえか。石油は何時か枯れるし、別のエネルギーに取って代わられるかも知れねえが、こいつは無くならないんだよ。
「日本なんて。」等という言葉を同じ日本人から聞くと、家族や日本の将来のために死んでいった人たちは無駄死にだったのかと思うぜ。
お前は右翼かいって?
我々の為に戦って死んでいったご先祖様に感謝することが右翼だというのならそうなのかも知れねえな。
お前昔学生運動やってたじゃないか。バリバリの左翼だったよな。教室でアジってたろ。
あの頃本気で革命なんて信じてたのか?
三島由紀夫がさ、安田講堂が落城した時「何故安田講堂から飛び降りて死ぬ人間が一人も居なかったんだ。」と言ってたけど、所詮若者の遊びだったと俺は思っているよ。
もっと言ってしまえば、はけ口の無い性欲をあんな形で表現してただけだと思うんだよな。
ただの流行。
ママ、イカ刺し頂戴。お前もなんか食いなよ。空酒は良くないぜ。
革命なんていうのは明日餓死するかも知れないという国民がすることで、そこそこ食えて行ける人間は現状をどうやってよりよくしてして行けるのかを模索してゆくべきであって、現状が不満だからといってリセットボタンを押してしまうのは、ドラクエをやっていて敵をやっつけることが出来ないとかんしゃくを起こしてリセットボタンを押す子供のようなものだろ?まあ、俺もすぐ癇癪起こしてリセットボタン押してたけどさ。
暴走族が爆音鳴らして人目を惹いて自己陶酔してるのと変わらない心情だったんじゃないかと思うのさ。
お前だってあの頃は反体制なんて言葉、やたら使っていたが今はどっぷり体制側の人間になってしまったじゃないか。
今は組合に虐められてるって?
そんなもんだろ。
組合なんてのは良く効く薬みたいなもんでさ、副作用も大きいぜ。
俺の前勤めていた会社の組合の委員長なんてごろつきみたいだったな。
「アニマル・ファーム」って言う本があるじゃないか。人間による自分たちへの扱いに嫌気のさした動物たちが立ち上がり、農場を占拠するが、中心になっていた豚は横暴な振る舞いとなっていくという話で、共産主義を風刺してるんだけど、人間ってそんなもんだよ。
戦後、「日本を二度と戦争を起こす気持ちを持たないようにさせよう。」とGHQがまず教育に手を付けた。その時に共産主義者を利用したのさ。
日教組なんてのは左翼の巣窟で槇枝委員長なんて日教組の親玉は北朝鮮に行って「主体思想に感銘を受けた。日本にも広めたい。」なんてとんでもねえ事ほざいていたんだぜ。
今頃小学校の教室の壁に金日成や金正日の肖像画が飾られてたかも知れないぜ。
日本人は日本の近代史を知らなすぎる。戦国時代とか明治維新のことは良く知ってるのにさ。
だから南京大虐殺だとか従軍慰安婦等というありもしない中国、朝鮮のプロパガンダをあっさり鵜呑みにする。
従軍慰安婦なんて軍についてまわっていたただの娼婦だし、南京なんて20万人しかいない街でどうやって30万人をたった数日で殺し、そのおびただしい死体をどうやって処理したと言うんだい。
嘘も言い続ければ真実になるって思ってるんだろうな。
それで日本人の中に罪悪感を植え付けて金をせびりとろうとしてるんだろう。
腹が立つのは日本の中にそういうことを焚きつけている奴らが居るということなのさ。
特にマスコミの中にさ、中国、朝鮮の工作員も沢山居ると思ってるよ。
俺はテレビはドラマしか見ないし、新聞も一応取ってはいるけれど、面白そうな見出しの記事を見るだけでほとんどそのまま古新聞の紙袋に放り込んでいるぜ。
どんな媒体でも個人なり会社の方針といった主観が入るものだ。
それは仕方のないことなのだ。ただあまりにも偏った連中が多いのが問題なのさ。
マスコミが主張する報道の自由って具体的に言ってどういう事なんだ?
自分たちの支持する団体や政治思想をよいしょすることを規制するなって事か?
自分たちは常に冷静な第三者で馬鹿な国民を良い方向に導く使命を帯びていると思っているのか?
あいにくだけど俺にはその道の先にあるのは政治体制は変わっても、またまた一部の人間だけが豊かになるだけの社会が待っているとしか思えない。「アニマルファーム」みたいにさ。
何故なら人間は死ぬまで動物で、人間の脳は地層の様な物で一番新しい大脳皮質は理性で動物的衝動を抑え込もうとするが、脳の深部からは常に生存、生殖といった本能がマントル対流のように沸き上がってきているのだ。
人間の行動なんて自分の意志でこういう選択をしたと思っていても、実は脳の深部から沸き上がってくる衝動に突き動かされて行動していて、理性はそんな動物的な感情に支配されているのを認めたくないから後からもっともらしい言い訳をこじつけているに過ぎない。
共産主義なんてのは絵に描いた餅、紙の上にだけ存在する理想郷にすぎないと思うぜ。
だからソ連でも東欧諸国でも共産主義は崩壊した。
中国も近いうちに内部から崩壊すると思ってるぜ。あるいはエネルギーの奪い合いで紛争が起こると思うよ。
13億の人間が先進国と同じような生活を出来るエネルギーなんか地球に存在しないぜ。
「さあみんなで一緒に仲良く食べましょうね。」などと言ってわずかな食料を分け合って食べたらみんなで餓死して人類は死滅する。
まあ死滅しても他の生物が人間の座にとって変わるだけの事で、地球や宇宙意志にはとるに足らない事だけどな。
世は常に弱肉強食の世界でパイは限られているのだ。
弱い物は淘汰されてゆく、それが自然界の掟で人間とてそれは変わらないと思うのさ。
なんかつまらん話になっちまったな。久しぶりに会ったのによ。まあ俺たちも後10年くらいしか生きられないかも知れないしな、あの頃って何だったのか自分なりに結論出しておきたかったのさ。
今日はちょっと悪酔いしちゃったな。ママ、お愛想。
お前はどうする?もう少し飲んでくって?
それじゃあな。
「あーあ。いーのちーぃみじーかしぃー♪こいせーよーおとめー♪あーかきーくちーびるー♪あーせぬーまでー♪あーつきーちしおのー♪さーめぬーまでーぇ♪あーすのーつきーひは♪なーいもーのを♪」
おや、こんな所に回転寿司屋が出来てたんだね。
近所なのに気が付かなかったなあ。どーれ、ちょっと入ってみようかな。
いらっしゃいませって、いいね、挨拶は元気な声でなくちゃいけねえや。
「お一人様ですか?」って?そうだよ、かあちゃんは餓鬼連れて逃げちゃったもんでさ、、って、こんな事ねえちゃんに話しても仕方ないんだけどさ。
「お好きな物ご注文してください。」って?、、嫌いなもんわざわざ注文する奴はいねえわ。
おっ、こら又変わったネタだね、ビーフジャーキーかい。
最近はカリフォルニアロールなんてもんまであるからな、これもテキサス辺りで流行ってる寿司かい?
どれどれ、、、うんっ?ビーフジャーキーにしても、こらまた固いね。
革靴食ってるみたいだぜ。
「握ったときは赤身だったんですが。」って何だい?一体何時からくるくる回ってるんだよ。「思い起こせばあれは夏の暑い日でした。ある老年のご夫婦がいらして『大将、今日は60回目の結婚記念日なんだ。普段は乏しい年金で爪に火を点すごとく暮らして居るんだが、今日は特別の日だ。気張っちゃうぜい、べぃべー。』とおっしゃって、上トロ、ウニの軍艦巻き、タラバにアワビなんて高い物をたらふく食べて、『ああ、腹一杯になった。最後は赤身でも食って締めようか。贅沢が癖になっちゃ困るからね。ちょっとその前にトイレでも行ってくるからべいべー。』とおっしゃって、まだ帰ってこないものだからこんなにひからびてしまって。」って、、、そりゃ無銭飲食だろ。
トイレ見て来いよ。
ほーら、やっぱり居なかったろ。ふつーに考えれば分かるだろ。
そこで逆エビ固めくらってるやつは、もしかしたら元はエビなのかい?
名古屋名物、金のしゃちほこじゃねえんだからよ。
他の物見てもどいつもこいつも酷いね。
何だいこのダンボールが乗ってる奴は。
3ヶ月前のイカがスルメになってしまいましてって、やめろ!やめろ!あんた寿司屋に向かない。
干物作ってろ。
大体このコンベア遅すぎないか?
あんたは俺の正面にいる。
あんたの左手がコンベアに鯖の握り二貫の皿を置いた。
そうしてこうやって話している間、約5分。
その間に鯖が移動した距離約一皿分15センチだ。
このコンベアの移動速度、分速3センチ。このコンベアの全長、おおざっぱに見積もって30メートル、すると一周するのに17時間もかかるわけだ。
干物になっちまうわけだぜ。
客だって待ちくたびれて干物になっちまうよ。
だからこんなに客入らないんだよ。
もっと早く回せよ。
電気代が勿体ない?何言ってんだい、良いからもっと早く回せ、もっとだ、もっと。
ほーら、やりゃできるじゃねえか。
さーて、それじゃ俺も大好物の鯖でも、、、!
おい!親父!今俺の鯖、瞬間移動しなかったかい?
手に取ろうとした瞬間、カウンターの向こうに行ったよ。
「こんなに早く回すことが出来るのを見せたかったんです。」って?う〜ん、流石に日本クレセント工業のコンベアは出来が違うわなあ、、、って、何かい?親父、意地悪してんのかい?
あーあ酷えもんだ、カーブの所で皿が飛んじゃったよ。
向こうのボックス席の家族連れの親父の禿頭に皿が刺さっちゃったよ。
便利な身体になっちゃったね。ちょっとした小物、皿に載せて運べるよ。
俺の鯖は、良くまあ遠心力に持ちこたえたね。
バイクでいうリーン・イン使ったのかね。テクニッシャンだねえ。
振り子特急みたいなもんだね。
「我が鯖の 我が知らぬ間の 成長に 思わず涙す 秋の夕暮れ」
何だい、歌まで出来ちゃったじゃねえかよ。
このコンベアの実力はこんなもんではありませんって、、、ほーお、見せてもらおうじゃないの、その実力とやらを。
んっ?椅子からなんか出てきたよ。
なんだいこりゃ、ジェットコースター乗るときにつける奴みたいだね。
おい、おい、身体締め付けすぎて痛いってーの。
これくらいしておかないと危険だって?ああ、覚悟は十分出来てるさ。
どうせかあちゃんにも子供達にも逃げられた男だ。
さあ、見せて貰おうじゃねえか!
おっ!なんかコンベアのスピードが上がってきたね。
おっ、俺の鯖がやってきたね、どれどれ、おい!親父!少し早すぎないかい。
皿が取れないじゃねえか。
まだまだこんなもんじゃございませんって、、、おい!親父!今一瞬目に入った青物の鯖が遠ざかるときに赤く見えたけど、もしかしてこれってドップラー効果って奴?
光速に近くなってる?
なんかきな臭い匂いがするぜ、潤滑油が焦げてないかい?煙も上がってるぜ。
本番はこれからですって?
やだね、なんか椅子がベルトと反対の方に回り始めてないかい?
そこが店の売りです、客も回転する回転寿司屋なんですって?、、、やな店だね、皿なんか見えやしねえじゃねえか。
取るどころの騒ぎじゃねえな、こりゃ。
おい、おい、そんなにスピード上げるなよ。
椅子もくるくる回り始めたじゃないか。
野郎!負けるもんか!
「いーのちーみじーかしー♪ こいせよーおおとめー♪」